古代の書物の中で、現代科学に通じる表現が見つかると、多くの人は驚きを覚えます。
旧約聖書イザヤ書40章22節も、そのような一節としてしばしば注目されます。
主は地球のはるか上に座して、
地に住む者をいなごのように見られる。
主は天を幕のようにひろげ、
これを住むべき天幕のように張り、(口語訳)
この短い詩のような文には、地球の形や宇宙の広がりに通じる描写が含まれていると解釈する人々がいます。ここでは、その意味と背景を見ていきましょう。
原語から見た「地球のはるか上」
この節のヘブライ語原文では、「地球のはるか上に座す」は יֹשֵׁב עַל־חוּג הָאָרֶץ (yoshev al chug ha’aretz) と表記されています。
chug(חוּג) は「円」「輪」を意味します。詩的には「地平線」や「境界」を指すこともありますが、場合によっては「球体」的なニュアンスを持つこともあります。
信仰者は、この「chug」が地球の球形をほのめかしていると解釈します。
当時の世界観が平らな大地を想定していたことを考えると、確かに異色な表現です。
「天幕のように張り」の意味
同じ節に登場する「天幕のように張り」の部分は、ヘブライ語で נוֹטֶה (noteh)、「広げる」「張る」を意味する動詞が使われています。
天幕(ohel)にたとえることで、天空を巨大なテントの布のように広げるイメージが描かれます。
聖書無誤謬派や創造論の立場からは、この表現が宇宙の膨張(ビッグバン後の空間の拡大)と重なるとされます。
1929年、エドウィン・ハッブル(Edwin Hubble)によって、銀河が互いに遠ざかっていることが観測されましたが、イザヤ書のこの描写は、それより何千年も前に書かれたものです。
当時の世界観との比較
紀元前8世紀ごろの古代近東では、多くの文化が「大地は平らで、上には固い天蓋(天の穹)がある」と考えていました。
バビロニアの宇宙観では、天は半球状のドームとして海の上にかぶさっているとされました。
この常識の中で「地球」や「天をひろげる、張る」という表現は際立っています。
科学的視点からの一致点
地球の形:球形であることは、肉眼では直接わかりません。航海や天体観測の発展によって、徐々に理解されたのは、紀元前4世紀ごろでした。
宇宙の広がり:20世紀以前の科学では、宇宙は静的だと考えられていました。膨張宇宙論が受け入れられたのはつい最近のことです。
このため、信仰者は、この節に科学的事実の先取りを見出します。
信仰的解釈と意味づけ
聖書を啓示と信じる立場では、イザヤは神から与えられた霊感によって、当時の知識を超えた事実を詩の形で表現したと考えます。
「地を見下ろす神の視点」「広がる天幕としての宇宙」は、創造主の偉大さを示す比喩であり、同時に物理的現実と不思議に符合していると解釈されます。
批判的見解とその反論
こういった解釈には批判的な意見もありますので、その一例と、それに対する反論もご紹介します。
批判的見解:学術的な聖書学では、「chug」は単に「円形の地平線」を指す詩的表現にすぎないとします。「天を張る」も天蓋の比喩であり、宇宙膨張を意味しないという解釈が一般的です。
反論(信仰者の側):たとえ詩的であっても、古代人の詩に現代科学と一致する表現が繰り返し現れる確率は低く、これは神の啓示の証拠であると考える。
イザヤ書40章22節は、数千年前の言葉が現代の科学的理解と不思議に重なり合う例として、今も多くの人の心を惹きつけています。