山の奥にある泉(地下水)の存在―創世記7章11節の不思議

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旧約聖書の創世記には、ノアの洪水という大規模な災害の物語が記されています。

その中に、地球の内部構造や地下水の存在を示唆していると思われる、とても興味深い一節があります。

 その日に大いなる淵の源は、ことごとく破れ、天の窓が開けて、 (創世記7章11節)

 

原語から見た「淵の源」

ヘブライ語で「淵」は תְּהוֹם (tehom) で、創世記1章2節にも登場し、「深い水」「原初の海」「深淵」を意味します。

また、「源」は מַעְיָן (ma’yan) で、「泉」「湧き水」「地下の水源」を表します。

直訳すれば、「深い水の泉がことごとく破れ」となり、地中深くに蓄えられた水源が、一斉に開かれた様子を描いています。

特に「破れ」にあたる בָּקַע (baqa) は、地殻が破裂するような激しい動きを連想させる言葉です。

 

古代の世界観と表現の特異性

古代の多くの文化では、泉や川は「地表近くの水の溜まり」から湧くと考えられていました。

地下深くに広大な水系が存在するという概念はほとんどなく、地球内部を探査する技術も、もちろんありません。

そのため、「深淵の泉が破れる」という発想は、当時の一般的な自然観からするとかなり異例です。

特に、洪水の原因を「天からの雨」だけでなく、「地からの水の噴出」にも求める点は、他の古代神話にはあまり見られない特徴です。

 

現代科学との符合

21世紀に入ってから、地質学と鉱物学は驚くべき発見をしました。

地球のマントルの中には、リングウッダイト(ringwoodite)という鉱物が存在し、その構造の中に水分子(OH基)を大量に含むことが確認されたのです。

推定では、この内部に含まれる水の総量は、地表の海水の3倍に相当するともいわれます。

※2014年、ブラジル・ジュイーナ(Juína)産のダイヤモンドに含まれていた包有物から、地球内部起源のリングウッダイト(ringwoodite)が確認されました。この成果は、マントル遷移帯(深さ410〜660km)に大量の水が存在する可能性を裏付ける画期的な証拠として、地質学の研究に大きな影響を及ぼしました。

また、断層活動や火山噴火に伴って、地下水が一気に地表へ噴き出す現象は、現代でも観測されています。

もし創世記の「淵の源は、ことごとく破れ」という描写が、現実の地質活動を反映しているなら、これは地球内部の水の存在を暗示するものと考えられます。

 

信仰者の解釈

創世記の7章11節の一節は、単なる洪水の文学的表現ではなく、神によって地球内部に設けられた水の貯蔵庫が開かれ、洪水をもたらしたと読み取ることもできます。

神の力が天と地の両方を動かし、全地を覆う変化を引き起こしたという点で、この描写は天地創造のスケールを思わせます。

また、この表現は「神が自然界の構造を完全に知っておられる」ということの証でもあります。

人間が地下深くの水の存在を科学的に知ったのはつい最近のことですが、聖書は数千年前にその可能性を記していたということです。

 

批判的見解とその反論

このような考え方に対して批判的な見解として、洪水物語は古代メソポタミアの神話(ギルガメシュ叙事詩など)に類似しており、「淵の源」は単なる詩的誇張にすぎないというものがあります。

確かに洪水伝承は広く存在しますが、聖書の記述は「地下水の噴出」という独自要素を持ち、現代地質学の発見と一致する点は偶然とは言いがたいものです。

創世記7章11節の聖句は、古代の物語でありながら地球内部の水源を連想させる、稀有な表現を含んでいるのです。

地表からは見えない大きな水源が存在することは、数千年前の聖書の言葉が、神の啓示によるものであることを示す一例です。

 

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