1.初期宇宙における力の統一
前回見たように、重力は他の三つの力とは明らかに異なる性質をもっています。
しかし、この特異性を理解するためには、現在の宇宙だけを見るのでは不十分です。視点を宇宙の始まりへと遡らせる必要があります。
現代物理学では、宇宙が誕生した直後の極端に高温・高エネルギーの状態では、現在分離している四つの力は、まだ分離しておらず、一つに統一されていたと考えられています。
この段階の宇宙では、温度とエネルギーがあまりにも高かったため、力が別々に現れるための条件そのものが存在していませんでした。
言い換えれば、自然界はまだ細かく分離されていない、未分化の状態にあったのです。
このような状態では、重力も電磁気力も、強い力も弱い力も、同じ一つの原理の異なる側面として現れていたと考えられています。
2.宇宙の冷却と「対称性の破れ」
しかし、宇宙は誕生の瞬間から膨張を続けています。膨張するということは、温度が下がり、エネルギー密度が低下していくことを意味します。
宇宙が冷えていく過程で、それまで保たれていた統一状態は徐々に維持できなくなり、ある段階で分離が起こります。
物理学では、この過程を「対称性の破れ」と呼びます。対称性とは、簡単に言えば「区別がないこと」を意味します。
初期宇宙では、力のあいだに本質的な区別は存在せず、対称な状態にありました。
しかし、宇宙が冷えるにつれて、その対称性が破れ、力が区別されるようになります。
重要なのは、この「破れ」が無秩序を生むのではなく、新しい秩序を生み出す契機になっているという点です。
3.力の分離の順序
現在の理論によれば、力の分離には順序があったと考えられています。
まず最初に、重力が他の力から分離したとされます。これは、重力が時空構造そのものに関わる力であることと深く関係しています。
宇宙が一定のスケールを持った「舞台」として成立するためには、まず重力が独立した形で確立される必要があったと考えられるからです。
次に分離したのが強い力です。強い力は原子核を形成するために不可欠な相互作用であり、物質の安定性を支える基盤となる力です。
この段階で、物質の内部構造に関わる力が、より明確な形を取り始めたと言えます。
さらに宇宙が冷却されると、電磁気力と弱い力が分離します。それ以前の段階では、この二つは区別されておらず、「電弱力」として統一された形で存在していました。
電磁気力が日常的な物理現象を支配し、弱い力が素粒子の変換を担うようになるのは、この分離の結果です。
この電磁気力と弱い力の分離については、実験的にも確認されており、理論と観測が一致している数少ない統一理論の成功例とされています。
4.分離は後退ではなく前進
ここで注意すべき点は、「分かれる」という出来事を、単なる崩壊や後退として捉えるべきではないということです。
むしろ、力の分離は、宇宙がより豊かな構造を獲得していくための前進的な過程でした。
もし力が最後まで統一されたままであったなら、原子も原子核も存在せず、複雑な物質世界は成立しなかったでしょう。
分離によって、それぞれの力が異なる役割を担うようになり、宇宙は階層的な秩序を持つ世界へと変化していきました。
重力は宇宙全体の構造を支え、強い力は原子核を安定させ、電磁気力は原子や分子を形成し、弱い力は変化と進化のプロセスを可能にします。
この役割分担こそが、現在の宇宙の豊かさを生み出しているのです。
5.分けることによって生じる秩序
このように見てくると、宇宙史における力の分離は、「秩序が失われた過程」ではなく、「秩序が段階的に明確化された過程」だったことが分かります。
区別がなかった世界に区別が生まれ、それぞれが固有の役割を持つようになることで、全体としての秩序が高まっていったのです。
聖書の創造物語も、創造を「分けること」の連続として描いています。
光と闇が分けられ、天(空)と地が分けられ、海と陸が分けられていきます。
「神は光と闇とを分けられた」(創世記1章4節)という言葉は、分離そのものが否定的な出来事ではなく、秩序を確立する行為であることを示しています。
この構造は、現代物理学が描く「対称性の破れによる秩序形成」と、驚くほどよく対応しています。
6.結
本回では、力がもともと一つであったという統一的な視点と、宇宙の冷却にともなって起きた分離の過程を整理しました。
次回は、この分離の中でも、特に重要な意味をもつ出来事、すなわち最初に分離した重力に焦点を当て、重力がどのような「層」に属する力なのかを、三層宇宙論の視点から考察していきます。
その作業を通して、重力の特異性が偶然ではなく、創造秩序の中で必然的な位置を占めていることが、より明確になっていくはずです。

