1.統一理論の到達点と未解決問題
現代物理学において、「四つの力の統一」は長年にわたる中心課題であり続けています。
その中で、電磁気力・強い力・弱い力の三つについては、電弱統一理論や大統一理論によって、ある程度まで統一的な理解が得られてきました。
しかし、重力だけはその枠組みに組み込むことができず、「最後の壁」として残されています。
この状況はしばしば、理論がまだ未完成だから、あるいは数学的手法が不足しているからだと説明されます。
ここでは別の可能性を考えたいと思います。問題は技術的未熟さではなく、統一を試みる視点そのものが、最初から重力に適合していないのではないかという問いです。
2.三つの力が統一できた理由
重力を除く三つの力には、明確な共通点があります。いずれも、電荷・色荷・弱荷という物質固有の性質に結びついた力であり、量子場として記述され、場の対称性という共通の数学的枠組みで扱うことができます。
これらの力はすべて、原子や素粒子といった物質層の内部で完結する相互作用です。
このため、三つの力の統一は、同一の層に属する力同士を整理し、一つの理論へまとめ上げる作業でした。
言い換えれば、それは「横の関係」の統一であり、同じ平面上に並ぶ要素を一つの枠組みに収める試みだったのです。
この意味で、三つの力が統一できたことは、理論的にも自然な結果でした。
3.重力が他の三つの力と同列に並ばない理由
ところが、重力はこの枠組みに当てはまりません。重力は電荷や色荷、弱荷といった物質固有の性質を必要とせず、質量やエネルギーをもつすべての存在に作用します。
さらに重要なのは、重力が「時空の上で働く力」ではなく、「時空そのものの構造を定める原理」であるという点です。
一般相対論が示すように、重力とは場の中の一つの相互作用ではなく、場が成立するための前提条件です。
このため、重力を他の三つの力と同じ土俵に置こうとした瞬間に、理論は自己矛盾を抱えることになります。
それは、舞台装置を舞台上の役者の一人として扱おうとすることに等しいのです。
聖書は、この「舞台」と「その上で働くもの」の区別を、象徴的な問いとして表現しています。
「わたしが地の基をすえた時、どこにいたか。もしあなたが知っているなら言え。」(ヨブ記38章4節)
ここで語られている「地の基」は、地上で起こる出来事そのものではなく、それらが起こり得る基礎・舞台を指しています。
重力が担っている役割も、まさにこの基を据える働きに近いものだと理解することができます。
4.「横の統一」と「縦の統合」
この違いを整理するために、「横」と「縦」という視点が有効です。
三つの力の統一は、同一層の内部で行われる「横の統一」でした。一方、重力はその層そのものを成立させる原理であり、縦方向の構造に属しています。
ここで言う「横の統一」とは、同じ階層にある要素を整理し、共通原理によってまとめる作業を指します。
それに対して「縦の統合」とは、異なる階層の関係を明らかにし、それぞれがもつ役割を保ったまま関係づけ、一つの全体として位置づける作業を意味します。
たとえば、物理学において電磁気力、強い力、弱い力を共通の理論で説明しようとする試みは「統一」の作業にあたります。
そして、それらの力と重力との関係を整理し、それぞれが宇宙の中で担っている役割を位置づける作業は「統合」と言うことができます。
この意味で、重力は横に並べて統一される対象ではなく、縦に貫いて全体を支える原理として理解されるべき存在です。
5.三層宇宙論から見た整理
三層宇宙論の枠組みを用いると、この違いはさらに明確になります。
電磁気力・強い力・弱い力は物質層に属し、物質内部の構造と変化を担っています。
これに対して重力は、量子層に根を持ち、物質層全体が成立する条件を整える力です。
この構造の中では、重力は「四つの力の一つ」というよりも、「他の力が働く場を与える原理」として位置づけられます。
6.量子重力理論が抱える困難の本質
重力を電磁気力などと同じように、粒子や場として扱おうとする試みも続けられています。
これは、他の三つの力がすべて粒子のやり取りとして成功裏に説明されているため、重力にもそれに対応する粒子(重力子)があるはずだと考えられているからです。
しかし、この方法で重力を計算しようとすると、粒子同士が極端に近づいた場合に、重力の影響が際限なく強くなり、計算結果がどんどん大きくなって有限の値に収まらなくなります。
このように計算結果が止まらず増え続け、物理的な意味を持つ数値として扱えなくなる状態を、物理学では「発散」あるいは「無限大になる」と呼びます。
電磁気力などの場合、この発散は計算方法を整理することで取り除くことができ、最終的には有限の値として扱えます。
ところが、重力の場合、重力は粒子同士の相互作用にとどまらず、空間や時間そのものの構造に影響を与えるため、粒子が極端に近づくと時空の揺らぎそのものが無限に強くなり、同じ整理方法が通用しません。
その結果、理論全体が安定した形にまとめられなくなってしまいます。
このため、重力を他の力と同じ方法で粒子や場として扱おうとすると、理論が成立しなくなるという問題が生じるのです。
これは理論の失敗というよりも、重力を他の力と同じ枠組みで理解しようとする問いそのものに限界があることを示しているのかもしれません。
7.統一とは何を意味するのか
以上を踏まえると、「統一」という言葉の意味そのものを再定義する必要があります。
重力は、他の三つの力と同列に並んで統一される対象ではありません。むしろ、統一を可能にしている前提条件として理解されるべき存在です。
したがって、三つの力は統一でき、重力だけが統一できないという現状は、理論の未完成さを示すものではなく、むしろ、重力が他の力とは本質的に異なる階層に属していることの証拠です。
重力は、統一されるべき最後の力ではなく、統一という概念そのものを成立させている力です。
この視点に立つと、重力をめぐる未解決問題は、物理学がこれから向き合うことになるかもしれない存在論的な課題(※)を、静かに示しているようにも思われます。
(※)
存在そのものがどのように成り立っているのかという課題

