聖書に見る神の愛―第1回 聖書が示す神の愛は一つではない

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1 「愛」という言葉について

私たちは日常的に「愛」という言葉を用います。「親子の愛」「夫婦の愛」「隣人愛」「神の愛」など、さまざまな場面で使われていますが、その意味を厳密に区別して考えることはあまりないのではないでしょうか。

しかし、聖書を丁寧に読んでいくと、一つの興味深い事実に気づきます。それは、聖書が語る愛は単純に一つの働きとして描かれているのではなく、異なる側面を持つものとして語られているということです。

この点を理解すると、神の愛だけではなく、人間関係や家庭教育、さらには現代社会が抱える問題についても、新たな視点から考えることができるようになります。

 

2 聖書が語る神の愛

聖書を読み進めていくと、神の愛には大きく分けて二つの側面があることが分かります。

一つは、人間の行いとは関係なく、存在そのものに対して注がれる愛です。イエスは次のように語られました。

 天の父は、悪い者の上にも良い者の上にも、太陽をのぼらせ、正しい者にも正しくない者にも、雨を降らして下さるからである。(マタイ福音書5章45節)

また、使徒パウロは、「まだ罪人であった時、わたしたちのためにキリストが死んで下さったことによって、神はわたしたちに対する愛を示されたのである」(ロマ書5章8節)と記しています。

これらの聖句はいずれも、人間の善悪や功績に先立って神の愛が与えられていることを示しています。

もう一つは、人間の生き方に関わる側面です。たとえば、聖書は、「人は自分のまいたものを、刈り取ることになる」(ガラテヤ6章7節)と語り、人間の行いには結果が伴うことも教えています。

一見すると、これら二つの教えは矛盾しているようにも思えます。一方では無条件に愛されると言いながら、他方では人間の行いが問われるからです。しかし、実際にはこの二つは矛盾ではありません。

 

3 神の愛には異なる二つの側面がある

この二つの教えを整理すると、聖書が語る神の愛には異なる二つの側面があることが分かります。

一つは、人間の存在そのものを受け入れる愛です。それは、人が何をしたかではなく、「存在している」という事実そのものに向けられる愛であり、人間の価値の土台となるものです。

もう一つは、人間の生き方に関わる愛です。神は人間を無条件に受け入れられる一方で、その生き方にも関心を持ち、より良い方向へ導こうとされます。そのため、人間の選択や行いには意味があり、責任も伴います。

この二つの側面は互いに対立するものではありません。むしろ、一つの愛が持つ二つの側面であり、それぞれが異なる役割を担っています。

 

4 神の愛の二つの側面を混同すると何が起こるか

ところが現代社会では、この二つの側面がしばしば混同されています。

本来、存在そのものが受け入れられているという土台の上に、生き方が問われるべきです。

しかし現代社会では、行いを評価することと、人間そのものの価値を評価することとが混同されがちです。

その結果、「成果を出した人には価値がある」「成果を出せない人には価値がない」という考え方が、人間関係や教育、職場、さらには社会全体に浸透することになります。

そして、人は自分の存在価値を他者からの評価によって測るようになり、評価されれば安心し、失敗すれば自分の価値まで失ったように感じてしまいます。

このような状態では、人は常に不安と比較の中で生きることになります。

本来、人間の価値は行いによって決まるものではありません。

しかし、存在を支える愛と、生き方を導く愛とが混同されるとき、人間はその土台を失い、承認欲求や過度な競争、自己否定へと陥りやすくなるのです。

 

5 本シリーズの課題と方向

本シリーズでは、この「神の愛の二つの側面」を聖書に基づいて整理し、人間とはどのような存在であり、神の愛はどのような秩序を持って働くのかを段階的に考察していきます。

特に重要なのは、人間はまず存在そのものが受け入れられ、その上で生き方が問われるという順序です。

この順序を見失うとき、愛は人を自由にするものではなく、人を縛るものへと変わってしまいます。

逆に、この順序を回復するとき、人は安心して生きることができ、家庭や教育、人間関係、さらには社会全体のあり方も変わっていくのではないでしょうか。

なお、この順序を最も簡潔に表しているのが次の聖句です。

 わたしたちが愛し合うのは、神がまずわたしたちを愛して下さったからである。 (ヨハネの第一の手紙4章19節)

この「まず」という一語の中に、聖書が示す愛の秩序が凝縮されています。

本シリーズでは、この聖句が語る「まず」という言葉が意味するものを、一つ一つ読み解いていきたいと思います。

 

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